スロットのRTPは、長期的には必ず100%を下回る。これは機械の設計上そうなっている。ところが、実際に自分で計算してみると、出てくる数字は100%を超えることが多い。しかも珍しい話じゃない。還元率97%のはずの台で、1000回転回したら105%になった、なんてザラにある。これは集計ミスでも、カジノの陰謀でもなく、計算の構造そのものに原因がある。何をどう数えるかで、同じ出玉がまったく違う数字になる。

「還元率」は誰の視点かで意味が変わる

まず前提を揃えておく。RTP(Return to Player)は、投入額に対して理論上どれだけ戻ってくるかの比率で、ふつう97%前後。ただしこれは100万スピン、1000万スピンといった桁でようやく収束する数字だ。短いスパンでは分散(バリアンス)が支配する。ここまでは知っている読者も多い。

問題は、この「投入額」と「払出額」をどう定義するかだ。

たとえば1回転100円で1000回転回したとする。単純計算の投入額は10万円。ここで5万円勝って、そのまま続けて全部すったとする。最終的な手元は元の10万円から増えも減りもしていない。ところが、途中の払出を全部足すと、5万円+αが「戻ってきた金額」として計上される。投入額は10万円のまま。だから還元率は100%を超える。

これはずるでも何でもなく、単に「総投入」と「総払出」の数え方が、プレイヤーの体感と一致していないだけだ。カジノ側の帳簿では、1回転ごとに賭け金が動き、当たれば払出が発生する。同じ100円が何度も「投入」としてカウントされる。手持ちの資金が1万円しかなくても、10万円分の投入は起こりうる。この再投入のループが、計算上の還元率を押し上げる最大の要因になる。

勝った金を再投入すると何が起きるか

具体例で追う。資金1万円、1回転100円、RTP97%の台を1000回転回すとする。

  • 総投入額:10万円
  • 理論上の総払出:9万7000円
  • 差額:マイナス3000円

ここまでは普通。ところが、途中で当たって払出が発生し、それをそのまま再投入した場合、投入額のカウントはどうなるか。手持ちの現金は最初の1万円しか入れていないのに、投入額は10万円に達する。もし途中の払出が合計6万円あったとすると、総払出は9万7000円のままでも、「自分の元手から出た投入」は1万円+(6万円のうち再投入しなかった分)になる。感覚的には「1万円が9万7000円になって、すごい還元率だ」と錯覚する。

実際、オンラインカジノのマイページに表示される「還元率」や「ベット総額」は、この再投入を含んだ数字であることがほとんどだ。だから自分で計算すると100%を超える。超えて当然の構造になっている。

ボーナスの計算が輪をかけて数字を狂わせる

ここにボーナスが絡むと、さらに数字がおかしくなる。日本のオンラインカジノでよく見る入金ボーナス、たとえば「初回入金100%アップ、最大5万円、賭け条件30倍」を考える。

5万円入金して5万円ボーナス、合計10万円の残高。賭け条件はボーナス分の30倍だから150万円。この150万円を賭け終えるまで出金できない。ここで重要なのは、賭け条件を消化するためのベットが、そのまま「総投入額」に加算されていく点だ。

RTP97%のスロットで150万円を賭けると、理論上の払出は145万5000円。手数料として4万5000円が消える計算になる。ボーナスの5万円をもらっても、賭け条件を消化する過程で4万5000円が吸い上げられる。差し引き5000円しか残らない。しかもこれは期待値の話で、実際には分散でもっと荒れる。

賭け条件とRTPの関係を数字で見る

もう少し細かく見る。同じ5万円ボーナス、賭け条件30倍で、RTPが96%の台と98%の台を比べる。

条件 RTP96% RTP98%
賭け条件消化額 150万円 150万円
理論払出 144万円 147万円
期待損失 6万円 3万円
ボーナス5万円との差引 マイナス1万円 プラス2万円

RTPが2ポイント違うだけで、期待値がプラスからマイナスにひっくり返る。ここで多くのプレイヤーが「還元率100%超え」と感じるのは、ボーナス残高で回している最中の一時的な払出を、自分の元手と混同しているからだ。ボーナス残高は出金条件を満たすまで自分の金ではない。それなのに、勝った瞬間の数字だけを見ると「還元率が高い」ように見える。

ここが一番の落とし穴だ。RTPは機械のスペックであって、あなたの収支ではない。ボーナスを使えば使うほど、見かけの還元率は上がり、実際の期待値は下がる。

セッション単位で計算すると必ず偏る

では、なぜ実際に「100%を超えた」という体験が起きるのか。それは、人間がセッション単位でしか計算しないからだ。

オンラインカジノの履歴を見ると、1セッションのベット総額と払出総額が出ている。ここでベット総額に再投入分が含まれ、払出総額にも一度勝って再投入した分が含まれる。結果、短期的には100%を超えるセッションが普通に発生する。

試しに、RTP97%、バリアンスの高い台(たとえば最大配当5000倍のビデオスロット)で1000スピン回したときの分布を考える。理論値は97%でも、1000スピンのサンプルでは標準偏差が大きく、95%〜105%のレンジに収まるとは限らない。1000スピン程度では、110%や120%になるセッションも珍しくない。逆に80%台になることもある。

回転数が少ないほど数字は暴れる

回転数と還元率のブレの関係をざっくり示す。RTP97%、1スピンあたりの標準偏差を仮に5(配当のばらつき)とした場合の目安だ。

  • 100スピン:還元率は70%〜130%の範囲に散らばる
  • 1000スピン:85%〜110%程度
  • 1万スピン:93%〜101%程度
  • 10万スピン:96%〜98%程度

100スピンや1000スピンで「還元率が100%を超えた」と喜ぶのは、コイントスを10回やって表が7回出たのを見て「このコインは表が出やすい」と結論するのと同じだ。サンプルが小さすぎる。

日本のプレイヤーの多くは、1セッションで数百から数千スピン回す。このレンジでは、還元率が100%を超えるのは統計的に普通のこと。むしろ超えない方が珍しい回数だ。

「100%超え」を期待値に変換する方法

では、この錯覚をどう扱うか。簡単なのは、還元率を「自分の元手に対するリターン」に置き換えて考えることだ。

方法はシンプルで、次の式で見る。

実質還元率 = (最終残高 − 入金額) ÷ 入金額

セッション中のベット総額や払出総額は無視する。入金した金額と、出金できた金額だけを見る。これなら再投入のループに騙されない。

たとえば5万円入金して、ボーナスなしで遊び、最終的に3万円出金したなら、実質還元率は60%。途中で10万円勝った瞬間があっても、それは関係ない。最終的に手元に残った金額だけが本当の数字だ。

この計算を10セッション、20セッションと続けると、だいたいRTPに近い数字に収束していく。収束しない場合は、台のRTPが表記と違うか、遊び方が偏っているかのどちらかだ。

カジノ側の表示する「還元率」を信用しすぎない

オンラインカジノのプロモーションで「還元率98.5%」などと書かれていることがある。これはたいてい、特定の台のRTPを指している。ゲーム全体の還元率ではない。しかも、そのRTPが実際に適用されているかは、第三者機関の監査を受けているかどうかで変わる。

日本から利用できるカジノの中には、eCOGRAやiTech Labsといった監査機関の認証を取得しているところもある。認証があれば、表記RTPが実際の乱数生成器(RNG)に反映されている可能性は高い。ただし、それはあくまで長期的な理論値の話。1セッションの結果を保証するものではない。

で、結局どう考えるべきか

還元率が計算上100%を超えるのは、再投入のループとサンプルの小ささが原因だ。カジノがズルをしているわけでも、計算が間違っているわけでもない。数え方の問題である。

この構造を理解しておくと、ボーナスの賭け条件や、セッション中の一喜一憂に振り回されにくくなる。重要なのは、ベット総額ではなく、入金額と出金額だけを見ること。そして、短いスパンでは何も結論が出ないと知っておくことだ。

とはいえ、ここで一つ引っかかる点がある。オンラインカジノの多くは、プレイヤーに「ベット総額」と「払出総額」を表示する。これは還元率を高く見せるための表示なのか、それとも単に帳簿上の都合なのか。意図はともかく、この表示に慣れてしまうと、自分の実際の収支感覚が狂う。還元率が100%を超えたセッションの後、なぜか口座残高は減っている。その違和感に気づけるかどうかが、長く付き合えるかどうかの分かれ目になる。

ギャンブルは余裕のある範囲で。負けを取り戻そうと回転数を増やすと、サンプルが大きくなって理論値に近づく。つまり、期待値通りに負けにいく。それが一番避けたい展開だ。