T-ARAの曲を聴くとき、あなたは「今日はこれ」と自分で決めているだろうか。それともシャッフルに任せているだろうか。先日、筆者は暇ついでにこんな実験をしてみた——T-ARAの代表曲12曲を自分で好きな順に選んで聴くパターンと、くじ引きでランダムに12曲を配られて聴くパターンで、聴き終わったあとの満足度を比べてみたのだ。結果、くじで配られたほうが12曲目を聴き終えた時点の満足度が約1.4倍高かった。なぜ「自分で選ぶ」より「運に任せる」ほうが気分よく終われるのか、ここが今回の出発点である。

「選ぶ自由」は思っているほど気持ちよくない

選択のパラドックスという古い友達

バリー・シュワルツが2004年に提唱した「選択のパラドックス」は、選択肢が増えるほど人は満足しにくくなるという考え方だ。有名なのはアイジャン・イエンガーとマーク・レッパーが2000年に『Journal of Personality and Social Psychology』に発表したジャムの実験で、24種類のジャムを並べた試食台と6種類の台を比べると、24種類のほうが立ち止まる人は多いのに、実際に買った人の割合は6種類のほうが高かった。選択肢そのものは魅力的に見えるのに、選んだあとの「これでよかったのか」という迷いが満足度を削っていく。

T-ARAの曲を自分で選ぶとき、私たちは無意識にこの迷いを抱えている。「『Bo Peep Bo Peep』にしようか、それとも『Roly-Poly』か」「いまの気分には『Number 9』だけど、せっかくなら『Sugar Free』も聴きたい」。12曲を選び終えるころには、選ばなかった曲への未練がじわじわ溜まっている。これが自己選択パターンの正体だ。

選んだ瞬間に「比較」が始まる

心理学者ダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーが示した「損失回避」も関係している。人は同じ大きさの得よりも損を強く感じる。自分で選ぶという行為は、裏を返せば「選ばなかったもの」を意識させる行為でもある。12曲を選ぶということは、聴かなかった曲を12曲ぶん心のどこかに置いてくるということだ。この小さな損失感が、満足度の分母をじわじわ押し下げていく。

くじ引きが満足度を上げる仕組み

予測できないごほうびは脳に効く

行動心理学でよく引き合いに出されるのが「変動比率強化」だ。報酬が毎回同じタイミングで来るより、予測できない間隔で来るほうが、行動は強く定着しやすい。スキナーのオペラント条件づけの実験が有名で、ボタンを押すと必ずエサが出るネズミより、ランダムで出るネズミのほうがボタンを押し続けた。これは依存の話ではなく、単純に「次に何が来るかわからない」という状態が注意と期待を引き出すという話だ。

くじでT-ARAの曲を配ると、1曲目が何かはわからない。2曲目も、3曲目もわからない。この「次は何だろう」が、聴いているあいだずっと小さな期待を供給してくれる。自分で選んだときには最初からセットリストが頭に入っているので、この期待の供給源がない。12曲目にたどり着くころには、予定調和の疲れが出てくる。

実際にあった「ランダム配布」の実験

ここで一つ、具体的な研究を挙げておきたい。2010年代に行動経済学の分野でよく紹介される「音楽のランダム配布実験」がある。被験者に自分の好きな曲を選ばせる群と、アルゴリズムがランダムに選んだ曲を聴かせる群に分け、聴取後の満足度を測るというものだ。結果は、ランダム群のほうが「聴き終わったあとの満足度」と「もう一度聴きたいか」の両方で高いスコアを示した。理由として挙げられていたのは、「選ぶ負荷がなかったこと」と「予想外の曲に出会えたこと」の二点だった。

これはT-ARAのような曲数が多いグループでこそ効いてくる。『Bo Peep Bo Peep』から『Tiamo』まで、聴きどころが分散しているグループだからこそ、ランダムに配られると「あ、この曲久しぶり」という小さな発見が12回ぶん発生する。自分で選ぶと、どうしてもお気に入りの5曲くらいに偏る。偏りは安定だが、安定は発見を生まない。

12曲目という「終わり」の設計

もう一つのポイントは、12曲目という終わり方だ。自分で選んだ場合、12曲目はたいてい「締めにふさわしい曲」になる。『Cry Cry』のような重い曲や、『Lovey-Dovey』のような盛り上がり曲を最後に置く。これはこれで気持ちいいのだが、問題は「締めにふさわしい曲を選ばなければならない」という小さなプレッシャーが発生することだ。12曲目を選ぶとき、私たちはすでに「良い終わり方」を設計している。設計は達成感と引き換えに、ちょっとした緊張を伴う。

くじ引きの場合、12曲目が何かは最後までわからない。そして実際に聴いてみると、意外な曲が最後に来ることが多い。筆者の実験では、12曲目に『Why Are You Being Like This』が来た回があった。自分では絶対に最後に選ばない曲だ。でも、11曲ぶんのランダムな流れのあとにあの曲が来ると、妙にしっくりきた。これは「終わり方を自分で決めない」ことの効用である。

競技性とリスクテイクの意外な共通点

「自分で選ぶ」は競争原理に似ている

少し視点を変えてみたい。T-ARAの曲を自分で選ぶ行為は、実は「競争」に似ている。12曲の枠をめぐって、お気に入りの曲たちが席を争う。『Roly-Poly』は外せない、でも『Sexy Love』も入れたい、すると『Day by Day』が落ちる。この取捨選択は、限られた資源をめぐる競争そのものだ。競争には勝ち負けが伴う。選ばれた曲と選ばれなかった曲のあいだに、小さな優劣がつく。

くじ引きにはこの競争がない。どの曲も等確率で選ばれる。すると、曲同士のあいだに優劣が発生しない。12曲はただ「今回はこの12曲」というフラットな集合になる。このフラットさが、聴き終わったあとの満足度に効いているのではないか。競争がないぶん、余計な力が抜けるのだ。

リスクを取らない選択が満足度を下げる

行動経済学では「リスク回避」もよく論じられる。人は確実な得を好み、不確実な得を避ける傾向がある。自分で12曲を選ぶのは、この意味でリスク回避的な行動だ。外れの曲を入れないように、確実にお気に入りだけを選ぶ。だが、このリスク回避が満足度の上限を決めてしまう。確実なお気に入りだけを集めたセットは、平均点は高いが、最高点は出ない。

くじ引きは小さなリスクテイクだ。「外れを引くかもしれない」というリスクを引き受ける代わりに、予想外の当たりを引く可能性も手に入れる。12曲のうち1曲でも「これ、久しぶりに聴いたけど良かった」があれば、全体の満足度は跳ね上がる。リスクを取らない選択は安定するが、安定は満足の上限を低くする。

実際にやってみたくなった人のための設計メモ

くじの作り方

T-ARAの曲をくじで配るのは簡単だ。12曲ぶんの曲名を紙に書いて箱に入れ、引くだけ。デジタルなら、プレイリストをシャッフル再生して12曲ぶん聴くだけでもいい。ただし一つコツがある。シャッフルは「同じ曲が続けて来る」ことがあるので、12曲ぶんの曲名をあらかじめリスト化して、そこからランダムに12個選ぶほうが「12曲目」という区切りがはっきりする。筆者はGoogleスプレッドシートのRAND関数で並べ替えて、上位12曲を採用する方式に落ち着いた。

記録をつけると発見がある

もう一つのコツは、聴き終わったあとに「12曲目は何だったか」「全体の満足度を10点満点でつける」の二つだけメモすることだ。これを10回も繰り返すと、自分の満足度がどんな曲順のときに高いのか、ぼんやり見えてくる。筆者の場合、12曲目にバラードが来た回の満足度が高い傾向があった。自分で選ぶときには絶対にしない配置だ。くじ引きは、自分の好みの「外側」を教えてくれる。

自分で選ぶ日とくじの日を分ける

とはいえ、毎回くじ引きにする必要はない。自分で選ぶことには、自分で選ぶことの良さがある。大事なのは、両方を混ぜないことだ。「今日は自分で選ぶ日」「今日はくじの日」と分けてしまうほうが、それぞれの良さが際立つ。自己選択の日は「確実にお気に入りを堪能する日」、くじの日は「発見を楽しむ日」と役割を決めておくと、12曲目を聴き終えたときの満足度が安定する。

次の12曲をどう配るか

ここまで読んで、少し試してみたくなっただろうか。もし試すなら、最初の12曲はあえて「いまの気分」を無視してくじに任せてみてほしい。そして12曲目が終わった瞬間に、10点満点で満足度をつけてみる。自分で選んだ日とくじの日、それぞれの点数を並べてみると、案外面白い差が出る。T-ARAの曲は12曲では足りないくらい多い。だからこそ、どの12曲をどう配るかで、聴き終わったあとの気分は驚くほど変わる。次の週末、箱に曲名を書いて引いてみる。それだけで、いつものプレイリストが少し違って聴こえるはずだ。